世界の4人に1人が1ヵ月断食、今日本人が知っておくべき「ラマダン」文化

Al Majlis [マジュリス] の深澤麻衣です。Al Majlisは、これからムスリムの方と接する方のために、アラブ文化に関する情報を提供しています。

 

今日からラマダン(断食月)がスタートしました。ムスリムイスラム教徒)の方は日の出から日没までの間、飲食をせずに過ごします。今回はそんな「ラマダン」をテーマにお伝えします。

ラマダンとは

イスラム暦9月は、夜明け前~日没まで飲食禁止!

ラマダンとは、アラビア語の【رمضان】(Ramadan)を由来とする言葉で、イスラム暦の9月のこといいます。ラマダンの1ヵ月間にムスリムが断食をすることから「ラマダン=断食」の意味だと思っている方もいるようですが、厳密には違うのです。

断食といっても、一日中飲食しない訳ではありません。ラマダン中の断食は夜明け前から日没までの時間帯のみで、それ以外の時間帯は飲食することができます。飲食できない時間帯は、日照時間の変化に伴い毎日数分ずつ異なりますが、日本では今年は3時頃~19時頃までのようです。この時間帯は食事をしないほか、水や唾液、たばこなど口に入れる物の一切がNGとされています。

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【写真:左下は、断食の終わりを告げる大砲(筆者撮影)】

ラマダンの開始時期は、毎年違う

イスラム暦太陰暦(1ヵ月が29~30日)を採用しているので、毎年ラマダンの開始月日は変わります太陰暦太陽暦よりも10日前後短いため、昨年は5月16日から始まったラマダンですが、今年は5月6日に早まっています。

なぜイスラム教が太陰暦を採用したのかについては諸説あります。一説によると、大陰暦の場合は毎年ラマダンの時期が変わるため、冬の寒さ、夏の暑さなどさまざまな環境下で断食することとなり、その結果どんな時期に飲食料が欠如しても対応できる力が見につくのだそうです。

イスラム圏では勤務時間短縮、喫煙スペース撤去されることも!

イスラム教が多数を占める国では、ラマダン中は日常生活でさまざまな変化が見られます。非ムスリムは断食をする必要はありませんが、日常生活での変化は非ムスリムにも大きな影響があります。

例えば、勤務時間の短縮。筆者が昔働いていたUAEでは、ラマダン期間中は2時間労働時間を短縮しなければならないと法律で定められていたため、朝8時に出社し、14時には退社していました。このためラマダン中は仕事が滞ることも多く、急ぎの仕事はラマダン前に何とか終わらせるように調整していましたね。

また、飲食できない時間帯は、たばこも口に含めることができません。 UAEでは喫煙スペースが撤去されていました。一部の非ムスリム向けの店舗を除き、飲食店舗は断食が終わる日没まで営業しないため、日中に外食することは難しくなります。

ムスリムにとって、断食とは?

ラマダン中に断食することは、ムスリムの義務

ムスリムがなぜ断食するのかというと、イスラム教の聖典コーランクルアーン)にこのように書かれているからです。

ラマダーンの月こそは、人類の導きとして、また導きと(正邪の)識別の明証としてクルアーンが下された月である。それであなたがたの中、この月(家に)いる者は、この月中、斎戒(断食を含み、神が嫌うことを避けること)しなければならない。」(第二章雌牛 第一八五節)

 青字は筆者追記 /引用元:宗教法人日本ムスリム協会「聖クルアーン」(2012)雌牛章185

成人のムスリムは、旅行者や病人、妊産婦などで断食に耐えられない場合を除き、断食しなければいけないとされています。

子どもは断食を免除されていますが、ムスリムの家庭では、一般的に8~10歳頃から断食を始めるそうです。とはいえ、いきなり夜明け前~日没まで断食をするのではなく、「今日はスープだけ食べていいよ」「今日は5時間だけ断食してみよう」といったように、成長段階に応じて、少しずつ慣れていくのだとか。

断食は、辛い修行のようなもの?

1ヵ月間の断食と聞くと、辛い苦行のように感じる方もいるのではないでしょうか?ところが、実際にムスリムの方に聞くとポジティブなコメントをされることが多いです。

「初日は確かに辛いけれど、2、3日程度で身体が慣れてくるんだよ」
ラマダンを通じて貧しい人に報いる気持ちが養うし、断食することでデトックスになるから身体にも良いんだよ」
ムスリム皆で断食していることを誇りに思うよ」

つらいことばかりではなく、ムスリム同士で断食を乗り越えることにより、信仰心の高まり、連帯感や達成感を味わうことができるようです。

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【写真:辛いけれど達成感や連帯感を感じることができる、ラマダンはマラソン大会の感覚に似ているのかもしれません(Photo by Peter Boccia on Unsplash)】

イフタール

「イフタール」とは、断食を終えて、日没後に最初に食べる食事のことをいいます。多くのムスリムは、自宅で家族とともにイフタールを食べるそうです。

イスラム圏では、貧しい人やすぐには自宅に帰れない人などのために、イフタールを無料で提供する文化があります。各家庭からモスク(イスラム教の礼拝所)へ食事を提供することが一般的ですが、寄付を募って食事を提供する慈善活動もあるようです。例えば、UAEのドバイでは、ラマダン中は公共のスペースに200台の冷蔵庫が設置されています。その名も「冷蔵庫シェア(Sharing Fredges)」。ムスリム・非ムスリム問わず、誰もが飲食物を提供し、必要とする人が食事することができるのです。

【写真:UAEドバイの「冷蔵庫シェア」(Instagramより引用)】

 

ラマダン中にムスリムと接する際、非ムスリムが気を付けるべきこと

飲食を進める場合は必ず聞く

筆者は仕事柄、ムスリムのお客様と接することが多いのですが、お茶を出す場合には必ず「今ラマダーン中だと思いますが、お茶はいかがしますか」と尋ねるようにしています。

実はラマダン中にどの程度厳格に断食を実行するか否かは人によって異なり、「結構です」と断る方もいれば、「いただきます」と言って召し上がる方もいます。相手から「今断食中です」と言われない限り、その人が飲食するかどうかは分かりませんので、筆者は相手に聞くようにしています。

目の前では飲食しない

相手がムスリムであることが分かっている場合、目の前で飲食することは避けましょう。日本に滞在しているムスリムの方の多くは「気にしないで飲食してね」といってくれることが多いですが、辞退するほうが無難です。

筆者は、断食中のムスリム同僚がオフィスにいる際は、会議室などの一目に触れないスペースで飲食したり、匂いや音がしないパンやチョコレートなどを隠れてこっそり食べるようにしていました。

余裕をもったスケジュールで

日本でもゴールデンウィーク、お盆や年末年始の時期は、相手が休暇中ではないかと配慮することがありますよね。基本的には同じことがラマダンについても言えます。 日中、特に夕方は疲れが出やすい場合もあるので、相手の都合を聞きつつ、余裕を持ったスケジュールで接することが必要です。

日本で気軽に「ラマダン」を体感してみよう

デーツを味わう

一般的には、断食がとかれると、まず水分をとり、甘いものを少し食べます。このときイスラム教の預言者ムハンマドはデーツ(なつめやしの実)を食べたという言い伝えもあることから、イフタールにはデーツがよく登場します。

最近では、成城石井信濃屋などの輸入食品店を中心に、日本でもデーツを手に入れることができるようになりました。お好み焼きに欠かせないおたふくソースの甘味とコクの決め手としても使われているんですよ。まだデーツを食べたことがないという方は、これを機に食べてみてはいかがでしょうか。

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 【写真:筆者がよく食べるのは「プレミアム・デーツ」鉄分やミネラル豊富で、健康にも良さそう】

「東京ジャーミィ」都内でイフタールを体験できるスポット

日本最大のモスクである東京ジャーミィ(東京都渋谷区上原)では、ラマダン月には毎晩イフタールが開かれ、ムスリム・非ムスリムを問わず、イフタールが無料で提供されています(予約制、期間中1回のみ)。また、ラマダンの週末は「世界の国々のラマダーン」をテーマとした特別講演が開催予定です。

興味がある方は、この機会にぜひ足を運んでみてくださいね。

イフタールの詳細・ご予約はこちら。 ラマダーンの特別講和の詳細はこちら

挨拶言葉は「ラマダーン・カリーム」

ムスリムとの会話の中で、ラマダンの時期に「ラマダン・カリーム」という言葉をよく耳にします。「ラマダン・カリーム【رمضان كريم】」は、直訳は「寛大なラマダン」で、「ラマダンおめでとう」という意味合いで用いられています。

ラマダン中にムスリムの方と挨拶をする機会があれば、ぜひ「ラマダン・カリーム」と挨拶してみてくださいね。