これからムスリムと接する人が知っておくべき、ハラールの基本

こんにちは。

Al Majlis [マジュリス] の深澤麻衣です。Al Majlisは、これからムスリムの方と接する方のために、ハラールに関する情報を提供しています。

今回は「ハラールとは」ということで、ハラールに関する基本の「き」をお伝えします。

 中東や東南アジアなどのイスラム圏からの訪日外国人観光客や、日本に在住するイスラム圏の外国人、日本人のイスラム教への改宗者の増加に伴い、日常生活においてムスリムイスラム教徒)の方々と接する機会が増えてきました。これからムスリムの方々と接する方にまず初めに知っていただきたいのが「ハラール」という言葉です。

 

ハラール(合法)とハラーム(非合法)

ハラール(ハラル)とは、アラビア語【حلال】(Halal)を由来とする言葉で、イスラム教の教義で許されていること、合法的なこと」をいいます。反対に、ハラーム(ハラム)【حرام 】(Haram)は、「イスラム教の教義で禁止されていること」をいいます。ちなみに、ハーレムという言葉は、日本では1人の男性が多数の女性に取り囲まれている状況を指しますが、実はハラームという言葉、「(男性の立ち入りが)禁じられた(場所)」から転じて使われるようになったそうですよ。

イスラム教では、生活のあらゆる事柄についてハラール、ハラームが定めてられています。豚肉やアルコールなどの飲食物以外にも、泥棒や汚職、利子を取ってお金を貸すことなどもハラームです。ムスリムは、このようなハラームを避けて生活すべきとされています。

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【写真:筆者がUAE人のムスリム家庭で振る舞っていただいたハラール食】 

何をハラールと考えるか、それぞれの「人」によって違う

何がハラール(合法)か、ハラーム(非合法)なのかは、イスラム教の聖典コーランクルアーン)に定められています。ただし、その解釈は人それぞれです。

アルコールはNGだけど、お酒を飲む人もいる

例えば、お酒について、コーランにこのような一説があります。

あなたがた信仰する者よ、誠にと賭矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けなさい。恐らくあなたがたは成功するであろう。

 引用元:宗教法人日本ムスリム協会「聖クルアーン」(2012)、食卓章90

そのため、多くのムスリムの方は飲酒しませんし、お酒の席に居合わせることすら嫌う方もいます。アラブ諸国では、法律で飲酒が禁止されている国や、リカーパミットという許可証を持ったお店でしかアルコール販売・提供できない国なども存在します。

ところが、実際にはお酒を嗜むムスリムの方も少なからずいます。その理由を聞いてみると、「コーランでは避けるべきと書かれており、禁止されているわけではない」「ここ(日本)はイスラム教の国じゃないから」「お酒は強いから大丈夫」など、人それぞれ解釈が分かれることがわかります。

女性の衣装もさまざま

 また、ムスリム女性と聞くと、このような民族衣装をイメージする方が多いかもしれませんね。

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【写真:UAEで筆者がオーダーメイドした民族衣装。頭のスカーフをヒジャブ、身体を覆う服をアバヤといいます】

 女性の服装については、コーランにこのような一説があります。

「かの女らの視線を低くし、貞操を守れ。外に現れるものの外は、かの女の美(や飾り)を目立たせてはならない。それからヴェイルをその胸の上に垂れなさい。」

引用元:宗教法人日本ムスリム協会「聖クルアーン」(2012) 、御光章31

この「女性の美しさを目立たせない」の解釈は、国や宗派、個人の考え方により異なり、ヒジャブやアバヤの着用自体が義務付けられている訳ではいません。上の写真のようにヒジャブやアバヤを着用し、さらに鼻や口を覆うベェールを身に着ける女性もいます。一方、ヒジャブやアバヤは身に着けず、非ムスリムと区別がつかない服装の方もいます。また普段はヒジャブやアバヤを着ている女性でも、家族や女性しかいない(家族以外の男性の目に触れない)場所ではヒジャブやアバヤを脱いで過ごしたり、非ムスリム圏への旅行中はアバヤを身に付けなかったりすることもあります。

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おしゃれにヒジャブを着こなす「ヒジャブ女子」

写真:rawpixelのロイヤリティーフリー画像より引用

このように、ハラール・ハラームの解釈はさまざまで、これがハラールという統一基準はないのです。

ハラールハラール認証」ではない

食のハラール(合法性)についてご注意いただきたいのが、ハラールとは、ハラール認証を受けたものではないということです。ムスリムの方と外食をするときに、「ハラール認証を取得したレストランでしか食べられないですよね」と聞く方もいますが、そうではありません。野菜や果物など、ハラール認証を受けていなくてもハラールと判断できるものは多く存在します。いわゆるベジタリアンメニューは、ハラールとして許容する方が多いです。

ハラール認証とは

日本でも、「ハラール認証」を取得した飲食店や、ネット通販や輸入雑貨店を通じて「ハラール認証」を取得した商品が見られるようになりました。ハラール認証とは、認証機関が独自に定めたルールに基づいて、ハラール(合法的)なものに対して認証するものです。世界で200を超える認証機関が存在していると言われていますが、統一された「これがハラール」というものは存在していません。

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【写真:近所のスーパーでよく購入するレトルトのタイカレー。何気なく購入している商品の中にも、ハラール認証マークがあることも!?】

ハラールは「食の安全」への感覚に近い

イスラム教という共通のルールがあるのにもかかわらず、統一基準がないと聞くと不思議に感じる方もいるかもしれませんね。ムスリムにとってのハラールは、私たちの「食の安全」に対する考え方に近いといえます。例えば、日本ではオーガニック(有機)認証を取得した商品が流通していますね。オーガニック認証を取得した商品を積極的に購入する方もいれば、オーガニック認証だからといって安心・安全ではないと考える方、認証を受けていなくても特定のスーパー、生産者の商品を購入すれば安心・安全と感じる方もいるでしょう。

ハラール認証についても同じようなことが言えます。すなわち、ハラール認証を取得した商品を見て、Aさんは「これはハラール」、Bさんは「ハラール認証だからといってハラールとは限らない」と意見が分かれることがあるのです。あるいは、Cさんは「ハラール認証を取得していなくても、生産者や商品の製造工程などがきちんと情報開示されていればハラールだ」と考えるかもしれません。

ハラール認証はあくまでも1つの目安であって、ムスリムは個人の価値基準にしたがって「これはハラール」「これはハラーム」と判断しているのです。

ムスリムを食事に招待するなら、こんな質問からスタートしてみよう

「これがハラール」という統一基準がない以上、これから接するムスリムの方が何をハラールと考えるか、事前に知ることは非常に困難です。FacebookTwitterなどのSNSで交流がある人であれば、この人は「厳格そう」「緩そう」と想像することはできますが、確実な方法ではありません。それは、この人は日本人だから、朝食は「ごはん、焼き魚、納豆、のり、お味噌汁」でしょと勝手に決めつけるようなものです。日本人だって納豆嫌いの人だっているし、朝食はパン派の人だっていますよね。

ムスリムの方には、具体的なメニューを切り口として質問しよう

分からないのであれば、相手に聞いてみるしかありません。とはいえ「食事に関して何に気を付ければいいですか」とムスリムの方に聞くと、大抵「ハラールでお願い」としか返ってきません。これでは何の準備もしようがありませんよね。

筆者はムスリムアテンド歴10年を超えますが、初対面のムスリムの方と食事をする際には、できるだけ具体的な質問をすることを心掛けています。

例えば、初めて日本に旅行しに来た人であれば「この界隈はラーメンで有名ですが、食べてみたいですか?」など、相手が興味を持ちそうなメニューから会話をスタートします。すると、自然と「何が入っているの?」「どうやって作るの?」「お店の雰囲気は?」などと質問され、その中で食材や調理環境の説明することができます。自然な会話の中で「魚介類のスープで作ったラーメンがあれば食べてみたいなぁ」「豚肉のスープで作っているラーメンのお店は入りたくないなぁ」「お酒が置いてあるお店は抵抗があるなぁ」など、相手の希望や悩みをヒアリングできれば大成功です。後は、相手の希望条件に合ったレストランを探すだけですから。

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浅草(東京)、大阪、京都に展開する成田屋は、鶏だしスープ。店内には礼拝スペースも。

写真:HALALラーメン 成田屋より引用

 ハラールに対する理解を深め、出来る限りハラールのものを用意しようとすることは大切なことです。ですが、ハラールの解釈は人それぞれに違います。おもてなし側ができることは、相手が必要とする情報提供のみであって、食べるか食べないか判断するのは相手です。「これはハラールだから食べてね」「これはハラールじゃないから食べられないよ」などと自分の判断を押し付けることは望ましくありません。具体的なメニューを会話の切り口として、相手がどうしたら安心して食べられるのか探ってみましょう。